一本の電話から
8月のある日のこと。
サーフィンの専門誌、NALU編集部から連絡が入った。
唐突的に「バリの特集をやりたいのですが、今月のスケジュールはどうですか」という内容だった。8月は特別な用事もなかったので、まあご協力はできると思いますよ、と軽く返答してしまったところから話が始まった。
「あー、よかったです。では早速なんですが」とその編集部員は畳かけてきた。
話を聞いていくうちに少しずつ企画の全容が明らかになっていった。
「特集って、それ、巻頭企画だよね」 ※巻頭(かんとう)企画=雑誌の前半部分を占める最も大きい特集。
「そうなんすよ」
おお、随分軽〜いタッチでも伸びのあるストレートを投げ込んできたな。よくよく聞いてみると70ページにも及ぶ大特集ではないか。しかもこの時点で締め切りまで3週間を切っている。
あのさ、これさ、間に合うの?
「合うの」の部分でわかりやすく声が裏返ってしまった。
こうしてNALUの渦に巻き込まれていった
それからバリの平和な日常が5日ほどすぎていった。NALUのことは頭の片隅にまで追いやられ、「ああ、やっぱり海上がりのビンタンはうめえな〜」などとノンキに暮らしていた。
こういう雑誌の企画はまさに下駄を履くまでわからないというのがこの業界での常識で、「あ、スンマセン、あの企画流れちゃったんですよ」ということが日常的に起きる。なので、下駄を履く前からアレコレと頭を悩ませたり、気を利かせて準備を進めたりは一切しないという方針を貫いている。
エアポートリーフの船着場でいつものようにアルコール分を体内に流し込んでいると電話が鳴った。誰だ誰だ、ド天然嫁か、などとI phoneのディスプレイを眺めるとNALU編集部からだった。
酔いどれのボクは、NALU? ふむ、そういえばナンカあったなと電話に出た。
編集部員Mは電話口で「来週、取材クルーが行きますんでどうかどうか宜しくです」なんてことを案外のんびりそうにいっている。
「ホントにやるの?」
「もちろんですもちろんです」
うわ〜〜〜〜〜〜。
それまで心と体のつなぎ目をダラシなくユルめていたアルコールたちがさっと血中に吸収され、我に返った。
こりゃ大変だ。
本格的に大変だ。
摂氏30度、湿度30%、風速3mの南国でノンキにビールを飲んでいたら、いきなり大雨洪水強風突風高波落雷警報が発令され、ふと空を見上げると濃い灰色の肉厚な雲たちが目でも確認できるくらいの速度でこっちに向かってきている、とまあそんな心境になった。
慌ててビールを置き、「水、水。水を一杯ワタシにください」とワルンのおばちゃんに水をもらい、トイレで出すもん出して、「なんかちょっと帰らきゃいけなくなったわ」とその辺にいたいろんな人たちに挨拶して、その場を後にした。
あわわわ。
70Pだったよな?
わわわわわ〜。
この時はナンダカ知らないけど恐ろしく大変な事態に巻き込まれてしまったようだぞ、ということだけははっきりしていた。
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